財団法人神奈川県経営者福祉振興財団が発行する NEW BUSINESS LINE 2012.10 に掲載されました

かながわの元気な企業
「産業Navi掲載企業に聞きました」 
株式会社ロックン・ボルト 代表取締役 長谷川賢司

ものづくりと共に歩む社長ならではの「自身で考えてモノをうみだす技術(チカラ)」が生んだ”緩まない”ボルト開発秘話。

 横浜駅から歩いて10分ほどの場所に本社を構える同社。工場はそこから相鉄線の平沼橋駅方面にさらに10分ほど歩いたところに位置し、そこで同社の主力製品「緩み止めボルト」が生産されている。2012年6月に東京ビックサイトにて開催された「機械要素技術展M-Tech」に出展し、積極的に営業活動も自ら行っている。「製品を知ってもらうには、どうしてもこういった費用をかけての営業活動が必要」と語る長谷川社長。同社を創業して以来、全ての業務を一人で行ってきた。
そのパワーの源となっているのは、大好きなゴルフ。71歳になった今でも、週に1回のラウンドは欠かさない。7~8年前からは、民謡も習っている。趣味があるからこそ、仕事にも情熱をもって取り組むことができると話す同社長。その滑舌よくはきはきと話姿は、まさに”生涯青春”という言葉がぴったりだ。

「自身で考えてモノをうむだす技術(チカラ)」が生んだ”緩まない”ボルト

思いがけない父の病・・・そして

 私はもともと横浜市金沢区の出身でして、順風満帆な人生を歩む予定でいました。しかし、ちょうど私が中学生の時に父が病に伏し、卒業後は働かざるを得なくなりまして・・・。
 夜間の高校に通いながら、昼間は機械の見習い工をするという生活が4年間続きました。授業料を自分で稼がなければなりませんでしたので、普通の高校生と比べたらそれは忙しい生活でした。ですが、この4年間で旋盤など機械の基礎となるものを勉強できたので、今はよかったと思っています。
 高校卒業後も同じく働きながら大学に。工学部に進学し、主に設計の勉強をしました。やはり授業料を工面しなくてはなりませんでしたので、大変でした。
 今の若い人には考えられないような青春時代でしたから、普通の人の倍はいろいろなことを経験できましたね。特に機械のことは、設計から現場まで何でもできるようになりました。この経験があるからこそ、今の私があるといえます。

独立。そして、待っていたものは・・・

大学を卒業して24歳のころ、職場で出逢って結婚したのが現在の妻です。結婚後4年ほど経過したある日、妻から「いつまでサラリーマンやるつもりなの?失敗したら失敗したでいいじゃない。あなたなら必ずできる」という一言。そこで独立を決意しました。
 株式会社横浜工業を設立。高校・大学時代の経験は、随分この時に役立ちました。しかしながら、ここからがそれはもう想像を絶するような試練のはじまりでした。
 確か1970年頃だったと思います。機械を購入したため、月給3万円の時代に、毎月7~8万円は返済に充てなければなりませんでした。以前勤めていた職場の人から、お客様を紹介してもらったのですが、この仕事が定期的に見込めると踏んでいたのに、途中でなくなってしまって。
 そこからは、現状を打破するため、1日数十件の飛び込み営業を、それこそ地べたを這うような営業をしました。幸いにもわが社のような小さいところを相手にしてくれる会社も中にはありました。そんな日々を続け、引き合いや受注が少しずつ少しずつ増えていき、会社を軌道に乗せることができました。

自身で何もかもできる技術があるからこそ

 力のついた横浜工業を息子に任せ、2001年からは新たな挑戦を目指し、画期的な製品を開発するため立ち上げたのが株式会社ハマシステムです。
 「この新しい会社で、今までにないボルトを作れないか」と思ったのです。
 まずはじめに、「一度取り付けたら外せないボルト」を作れないものかと考えました。
 自動車のタイヤやナンバープレートの盗難については、従来のボルトは簡単に取り外せてしまうため、以前から脆弱性が指摘されておりました。そこで盗まれないボルト、つまり簡単に外せないボルトの実現を目指し、思考錯誤の連続で開発したのがロックン・ボルトシリーズ第一弾の「盗難防止ボルト」です。「一度締めると外そうとしても頭が空回転してしまい、専用工具でしか取り外すことができない構造」にやっとのことで辿り着くことができました。
 そして、さらに幅広い販路の獲得を目指し、挑戦を続けて開発に勤しんだ結果、完成したのが「緩まないボルト」。現在当社の主力商品となったロックン・ボルトシリーズ第二弾の「緩み止めボルト」です。  ボルトと言うのはきちんと締めていても長い間使用していると必ず緩んでくるものです。そうすると、機械の調子が悪くなったり、場合によっては人身事故の原因になりますので非常に危険です。振動、衝撃、引っ張り、切断、抗張力等、様々な種類の試験に合格する必要がありましたので、対応のために度重なる改良を行い、製品化まで約一年半。やっとの思いで完成しました。
 従来のナットを2つ取り付けて緩み止めをする方法もありますが、場合によってはナットの取り付けができないことや、きちんと締めていても増し締めが必要となる場合も多くありました。「緩み止めボルト」であれば、ナットを使わずに同一面だけで止めることができ、繰り返しの利用が可能です。もちろん、振動、動き、回転等に対しての強度も備えています。
 「盗難防止ボルト」、「緩み止めボルト」ともに特許を取得しました。そして、ロックン・ボルトシリーズ確立にあたり、ブランディング戦略上、社名も”株式会社ロックン・ボルト”で統一することにしました。
 設計、開発、旋盤、フライス、組み立て、外注・・・・等々、全て私一人でやらなければなりませんでしたから、一言で「苦労しました」といい尽くせるほどやさしいものではありませんでした。しかし、何でも一人でできる技術を持ち合わせていたからこそ、こういったモノづくりの発想と実行ができたと自負しています。

新たな目標

 次の目標は、全世界に向けて事業を展開していくことです。アメリカ、ドイツ、台湾、タイ等々、多くの地域に向けての事業展開ですね。いかにして名前を売り、全世界をマーケットに商売ができるかが重要です。
 同時に「緩み止めボルト」のより低いコストでの生産を実現しながら、具体的環境を整備していくことが必要だと感じています。
 体が動くうちは自分で図面を引いて、第一線で仕事をしていくつもりです。
 「私がいなくなる時が来ても、ボルトが残ればいい」という考えで仕事をしていきます。大好きな趣味からパワーをもらいながら、若々しく。